寿司屋
実家に帰ると、うちの親が孫たちを食事に連れて行ってくれる。
というか、子供たちが甘えて「ごはん連れって~」とねだる。
子供たちが行く店をリクエストするんだが、最近は寿司屋に行くことが多い。
大手の回転寿司ではなく、ローカルの寿司屋でちょっとお値段が高いところ。
そこはやっぱり全然違って、かなり美味い。
今回、かれこれ20~30年ほど前の話をふと思い出したので、その話。
オレが子供のころ、今と同じように祖父に寿司屋に連れて行ってもらった記憶がある。
当時は回転ずしがなんとなく普及し始めて、でもまだカウンターが目の前で握ってくれるようなお店もまだまだ健在という感じだった。
記憶にあるのは回転式じゃなくて、そういったカウンターのある昔ながらのこじんまりした寿司屋。
そして、そういうお店はちょっと高級感があって、子供ながらになんか高そうやな~ってな感じを受けていた。
のれんをくぐって店に入るとカウンターがいっぱいだったんで、2階の座敷に通された。
あまり広くなく、たしか4つぐらいしか机が無かったと思う。
先に2組ぐらいお客さんが入っていた。
そのうちの1組はサラリーマンっぽかった。
部長とその部下達的なかんじ。
その部長らしき人がいろいろとその店の寿司について語っていた。
「ここの店はシャリの締め具合が抜群や。脂ののったトロと相性が合うようにしとる」的なことを言っていたと思う。
かなりウンチクを語ってた。
「ここの大将は目利きがどうのこうの・・・」
「2階の座敷の方が実はゆっくり食えるんで、お前らをつれてきてやりたかったんや・・」
とか言ってた。
それを聞いた部下たちが
「へ~、すごいっすね~」
「こんないい店何度もこれないっすよ~」
「ほんといい店知ってますよね~」
「さすがっすね~」
とよくあるやり取りをしていた。
で、当然2階なので1階のカウンターからは離れてる。
ネタを注文するために、カウンター越しの大将に直接言うことはできない。
その代わりに、それぞれの机に店員さんを呼ぶピンポンのボタンがあった。
筆書きされた高級そうなメニューを見ると、本日のおすすめとかもあって、その中に赤貝があった。
じいちゃんも「とりあえず酒と赤貝、いっとこか」ということで、
店員さんを呼ぼうと思って、ピンポンのボタンを押した。
ボタンの手前に「このボタンを押してご注文ください」と書いてあった。
と同時に、隣の席の部長らしき人がいきなり叫んだ
「トロ!!」
なんや?と思ってたら、その部長がさらに大きい声でもう一回叫んだ。
「トロ!!!」
振り返ってみると、その部長がピンポンのボダンに顔を近づけて叫んでいた。
「あれ~、この機械こわれてる?ちゃんと聞こえてへんのかなぁ?」
「トロ!!、トロ!!!、トロ!!!」むっちゃ連呼するやんけ。
しばらくすると、店員さんがきて、
「ご注文きまりましたでしょうか?」
「いや、さっき注文してんけどな。まだ来てへんわ。大将のトロは最高やからなぁ。」
回りの部下たちはプルプル震えていた。
そのサラリーマン集団とは別の客も同様に、下を向いてプルプル震えとった。
オレもじいちゃんも、これまた同様に笑いをこらえるのに必死でプルプル震えていた。
その後食った赤貝が最高に美味かった。
部下のやつら、ちゃんと言うたれよ~